たこ焼きは、なぜ却下されたのか——AIと考える文化祭企画

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レポートも、課題も、もうAIを使い慣れている。 聞けば、それらしい答えが返ってくる。 コピーして、貼り付けて、提出する。 ——それで済ませてきた方に向けて書いています。

一往復で終わっていないか

AIは、もう特別な道具ではありません。 聞けば答える。それだけの関係で、十分役に立ってしまう。 だからこそ、多くの人が一往復で会話を終えます。 質問して、答えをもらって、それで終わり。

AIの本領は、実は「答える」ことではなく「壁打ち相手になる」ことにあります。 評価軸を一瞬でいくつも出せること、視点を切り替えて何度でも殴り返してくれること——これは人間相手の壁打ちでは、なかなかこの速さではできません。 今日は、文化祭の模擬店企画を例に、一往復では、たどり着けなかったかもしれない結論に向かうまでを、実際のやり取りで見せます。

流れはこうです。 プロトタイプを作る→評価軸①を当てる→評価軸②を当てる→次のAIに引き継ぐ→別の視点をぶつけてもらう→一次情報で確かめる→結論。 長いですが、一つずつは単純です。

1. まず、型を決めずに作ってみる

クラスの模擬店、何をやるかまだ決まっていません。 とりあえず、AIに聞いてみます。

プロンプト

文化祭の模擬店、何かいい案ある?

返ってくるのは、たこ焼き、かき氷、クレープ——どこかで聞いたことのある案ばかりです。 間違ってはいません。 でも、これで終わらせたら、いつもの一往復と同じです。

ここでは、まだ良し悪しを判断しません。 一度、たたき台として受け取っておきます。 仮に「たこ焼き」を、最初のプロトタイプとして選びました。

2. 一つ目の軸で、殴ってみる

   

プロトタイプができたら、次は評価軸をぶつける番です。 最初の軸は「原価と利益」にしました。

プロンプト

たこ焼きの原価と、想定される利益を計算して。 材料費、機材のレンタル代も含めて。

AIが数字を出してきます。 たこ焼き機のレンタル代が意外と高く、1人あたりの原価に対して、利益率がそこまで良くないことが分かります。 一往復で終わっていたら、この数字には気づかないままだったかもしれません。

3. 二つ目の軸で、また殴ってみる

利益率だけで判断するのは、まだ早いです。 二つ目の軸「準備の手間と回転率」を当ててみます。

プロンプト

たこ焼きの調理時間と、1時間あたり何食さばけるか、当日の混雑を想定して見積もって。

ここで、面白いことが起きます。 利益率を上げようとして値段を上げると、回転率が落ちる。 逆に安くして数をさばこうとすると、仕込みが追いつかない。 一つ目の軸と、二つ目の軸が、綺麗にぶつかり合います。

正解は、まだ出ません。 でも、最初の「たこ焼き、いいですね」だけで終わっていたときには見えなかった、トレードオフの輪郭が見えてきました。

4. ここまでを、次に持ち越す

ここまでの検討を、AI自身に一度まとめてもらいます。

プロンプト

ここまでの検討内容を、別のAIに引き継げるように、プロンプトの形でまとめて。

AIは、今日の会話をまるごと覚えているわけではありません。 この会話の中で積み上げてきた前提は、この会話の中でしか通用しません。 だから、次に持ち越したいなら、こうやって明示的に橋渡しする必要があります。 返ってきたのは、こんな一文でした。

引き継ぎプロンプト

文化祭の模擬店で、たこ焼きを検討中。 原価と利益を試算した結果、利益率はやや低め。 調理時間と回転率を試算した結果、値段を上げると回転率が落ち、安くすると仕込みが追いつかないというトレードオフが判明。 この前提を踏まえて、見落としている評価軸があれば指摘してほしい。

これを持って、別のAIのところへ移動します。

5. 別のAIに、殴ってもらう

引き継ぎプロンプトを、別のAIに投げてみます。 モデルが違えば同じ結論を返すこともありますが、学習の仕方や癖が違うぶん、見落としを拾ってくれることもあります。

今回、返ってきたのは、想定していなかった指摘でした。 「食品衛生」の視点が、これまでの検討に一つも入っていない、というものです。 原価と回転率だけを見ていたら、出てこなかったかもしれない軸です。

ここで一度、立ち止まります。 このAIの指摘は、本当に正しいのでしょうか。 鵜呑みにするのではなく、一次情報を確認しにいきます。

6. AIの指摘を、一次情報で確かめる

「文化祭 模擬店 食品衛生」で検索してみると、複数の保健所が、模擬店向けの注意事項を公開していることが分かります。 その中の一つ、大阪府の保健所が出している資料を開いてみました。

そこには、生ものや加熱前の食品を提供しないこと、包丁やまな板を現場で使わないこと、そして—— 「野菜を刻む、たこ焼きのタコを切るなど、原材料のカットを現場で行わないこと」 という一文が、そのまま載っていました。 仕込みは、設備の整った施設であらかじめ済ませておく必要がある、ということです。

AIの指摘は、想像や一般論ではなく、現実の運用ルールに基づいていたということです。 しかも、最初にAIが提案した「たこ焼き」そのものが、名指しで注意事項に登場していました。 教室でタコを切りながら仕込む、という当初のイメージは、この時点で成立しないと分かります。

AIの言うことも、人の言うことと同じです。 正しそうに聞こえても、最後は自分で確かめる。 この一手間が、検証を検証たらしめます。

7. たどり着いた結論

原価、回転率、そして現場で仕込みができないという制約。 3つの軸を一通り当てた結果、たこ焼きよりも、現場でのカットが要らず、加熱の管理もしやすい商品——例えば、個包装のフランクフルトのような案の方が、トレードオフの折り合いがつきやすいことが見えてきました。

最初にAIが提案した「たこ焼き」は、間違いではありませんでした。 ただ、一往復で採用していたら、当日になって初めて気づいていたはずの問題が、いくつも隠れていました。

答えを聞く、から、一緒に確かめる、へ

今日やったのは、特別なことではありません。 プロトタイプを作る。 評価軸を当てる。 崩れたら、作り直す。 別の視点にも当ててみる。 最後は、自分の目で確かめる。 ——これを繰り返しただけです。

AIは、一般論を返す機械ではありません。 積み重ねてきた前提を踏まえて、一緒に仮説を作り、崩し、作り直してくれる相手です。 その関係は、今日のこの会話の中だけで育ったものです。 次に別の課題に取り組むときは、また一から積み上げることになります。 それでも、積み上げ方そのものは、もう身についています。

文化祭でなくても構いません。 レポートでも、部活の企画でも、志望理由書でも—— 一往復で終わらせず、評価軸を当てて、殴って、確かめる。 やることは、いつも同じです。