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深淵を科学する 第4回

オルカンに勝てない
モメチンを科学する。
AIと一緒に「モメチンムーブする戦略」を作ってみた。
それが、プロトタイプ2号だ。
モメチン――つまり、モメンタム(直近の株価の勢い)を利用して、上がっている銘柄についていく。
理屈としては悪くない。
ところが、バックテストを進めていくと、ひとつ問題が見えてきた。
こいつ、相場の地合いを5つに分類したうち、1つでしかうまく動かない。
相場には、上昇相場もあれば、下落相場もある。横ばいもあるし、急変する局面もある。
プロトタイプ2号は、そのうちのひとつの環境ではきれいに機能する。
しかし、それ以外では資金を十分に活用できない。
AIは「実地テストをしてみましょう」と言う。
いや、もちろんテストは大事だ。
でも、
「テストをしたとて」
なのである。
すでにバックテストで、かなりはっきりした弱点が見えている。
それでも実際に数字を確認してみることにした。
日経225、オルカン、S&P500と勝負してみる
過去5年間を使って、プロトタイプ2号を日経225、オルカン(全世界株式)、S&P500と比較してみた。
結果は――惨敗だった。
年率リターンで見ると、ベンチマークのおよそ3分の1程度しか出ていない。
これはさすがに厳しい。
原因を調べると、かなり単純だった。
資金効率が悪い。
5つの相場環境のうち、1つでしか十分に動けない。
ということは、残りの時間は資金が遊んでいる。
どれだけその1つの環境で上手く戦えても、年間を通して見れば、資金を使っていない時間が長すぎる。
戦略そのものの良し悪し以前に、構造的な問題だった。
そこで、ひとつ試してみた。
戦略がポジションを持っていない間は、オルカンを買っておけばいいのでは?
これなら資金を遊ばせずに済む。
結果はどうだったか。
期間をならすと、オルカンをそのまま持つより、リターンがわずかに上回った。
おお。
これは結構すごいことをやったんじゃないか。
……と思った。
しかし、期間を分けて見ると、そうでもなかった。
過去の学習期間だけ見ればオルカンに勝っていたのに、直近の期間(市場全体が異常なほど強かった時期)では、オルカン単体にすら負けていた。
市場環境によって勝ったり負けたりする、安定しない結果だったのだ。
しかも、下落を抑える効果も期待したほどではなかった。値下がりの大きさ(最大ドローダウン)は、オルカンをそのまま持っていた場合とほとんど変わらなかった。
さらに、実際にはこの間、数百回という売買が発生していた。理想的な条件でのわずかな上乗せ分など、実際の手数料を考えればおそらく消えてなくなる。
「それ、最初からオルカン買っておけばよくない?」
複雑なルールを作り、シグナルを計算し、個別株を選び、売買する。
その結果が、市場環境次第で勝ったり負けたりする、しかもコストを考えれば怪しい上乗せ。
これでは、わざわざ複雑な仕組みを組む理由がない。
これが現実だった。
ここから何をするのか
ここで一度、考え方を変えた。
「プロトタイプ2号をどう改良するか」ではない。
そもそも、別の戦略を探してみよう。
そう考えた。
最初に試してみたかったのが、出来高の急増をシグナルにする戦略だった。
株価が動く前に、何らかの理由で出来高が急増する。
そこに大口投資家などの動きを感じ取って、その後についていく。
いわば、
「大口のコバンザメ戦法」
である。
正直、名前はともかく、考え方としては面白い。
そしてバックテストしてみると、これが意外にパフォーマンスが高かった。
そこで、ひとまずプロトタイプ3号として採用することにした。
ここで少し気をよくした。
「もしかすると、まだ知らない勝ち方があるんじゃないか?」
そこでAIに聞いてみた。
「今までとは違う切り口で、パフォーマンスが出そうな戦略を挙げてほしい」
返ってきた候補は4つ。
- 52週高値圏に居続ける銘柄を狙う
- 急落後の戻りを狙う
- セクター全体の勢いを見て乗り換える
- 値動きが穏やかな銘柄を選ぶ
せっかくなので全部試してみる。
結果は、かなり正直だった。
AIが出した戦略を全部試す
まず、急落後の戻りを狙う戦略。
これは2パターン試した。
結果はダメ。
急落した銘柄を「そろそろ戻るだろう」と拾うつもりが、現実には、
そのまま下がり続ける銘柄まで拾ってしまう。
「落ちたから買う」という単純な発想では、落ちている途中なのか、底を打ったのかを区別できない。
見事に大怪我した。
次に、セクター全体の勢いを見て乗り換える戦略。
これも悪くない理屈に思えた。
しかし結果を見ると、
指数を買っておくのと、ほとんど変わらない。
それなら指数でいい。
そして、値動きが穏やかな銘柄を選ぶ戦略。
これはさらに面白い結果になった。
狙いとしては「安定している銘柄を選べば、リスクを抑えながらリターンを取れるのではないか」というものだった。
ところが、実際に出てきた結果は逆だった。
値動きの荒い銘柄の方が成績が良かった。
これも不採用。
4つ試して、生き残ったのはひとつ。
「52週高値圏に居続ける銘柄を狙う戦略」
これをプロトタイプ4号として採用することにした。
そして、思わぬ副産物もあった。
プロトタイプ3号と4号は、既存の戦略と動くタイミングがあまり重ならなかった。
これは重要だ。
戦略単体のリターンだけを見るのではなく、異なる動きをする戦略を組み合わせることで、資金効率を上げられる可能性がある。
そこで、3つの戦略を合わせてみることにした。
3つ合わせても、オルカンの6割
3つの戦略に資金を分散して、同時に動かしてみる。
プロトタイプ2号。
プロトタイプ3号。
プロトタイプ4号。
単体ではそれぞれ問題を抱えていた。
しかし、動くタイミングが違うなら、組み合わせることで弱点を補えるかもしれない。
結果。
資金効率は、確かに格段に良くなった。
これは狙い通りだった。
しかし――
トータルのリターンを見ると、
オルカンの6割程度。
まだ全然届かない。
戦略を増やした。
資金効率も改善した。
それでも、指数には大きく負ける。
ここまで来ると、さすがに考えさせられる。
「個別株を選んで、タイミングを測って、売買する」
という行為そのものが、思っている以上に難しい。
ならば、オルカンを敵ではなく味方にする
ここで、また発想を変えた。
オルカンに勝とうとするのではなく、
オルカンをベースにして、その上に戦略を載せたらどうか。
つまり、資産のすべてを戦略に賭けるのではない。
基本部分はオルカン。
その一部だけを、3つの戦略に振り分ける。
いわば、
「オルカン+戦略」
という形だ。
比率をいろいろ変えて試してみた。
すると、面白いことが分かってきた。
戦略の比率を上げればリターンを狙える。
しかし、下落も大きくなる。
逆にオルカンの比率を上げれば、値動きは安定する。
その中間を探っていくと、
下落の抑制とリターンのバランスが最も良くなる配分
が見えてきた。
ただし、ここでも一つ引っかかることがあった。過去5年通しで見たときの最良の配分と、直近の期間だけで見たときの最良の配分が、ぴったりとは一致しなかったのだ。おまけに、この比率を保つには、定期的に売り買いして調整し続ける必要がある。その手間や税金の計算まで含めると、理屈の上では良い配分でも、実際に回すとなると簡単ではなさそうだ。
まだ最終的な答えではない。
ただ、少なくとも方向性は見えてきた。
中の人の一言
スイングトレードを決まったトリガーで機械的に裁定しても、オルカンにはなかなか勝てない。
今回、それがかなりよく分かった。
もちろん、良い戦略を見つけ出せれば、オルカンを超えられる可能性はある。
でも、「なんとなく上がりそう」「この値段なら安いだろう」「そろそろ反発するだろう」という値ごろ感だけで個別株を触っていたら、オルカンにすら遠く及ばない。
むしろ今回の実験で分かったのは、適当に個別株を売買するくらいなら、オルカンを買っておいた方がいい。という、身も蓋もない事実だった。
そして、もうひとつ。こういうことを、実際にデータを入れて、仮説を作って、バックテストして、失敗したら別の仮説を試して……というところまで、かなり手軽に繰り返せるようになった。これは本当にAIの進化のおかげだと思う。
昔なら「思いついた投資戦略を試してみよう」と思っても、データを集め、プログラムを書き、検証環境を作るだけでかなりの手間がかかった。今はAIと会話しながら、「じゃあ、これは?」と次々に試せる。
もちろん、AIが勝てる戦略を教えてくれるわけではない。むしろ今回のように、「それ、全然ダメでした」という答えを何度も突きつけてくる。
でも、それでいい。失敗した戦略を捨てられる。「なんとなく良さそう」という思い込みを、数字で壊せる。そしてまた次の仮説を試せる。
深淵を科学する。たぶん、こういうことなのだと思う。
さて。ここまでやっても、まだオルカンには勝てない。では、何を変えれば勝てるのか。
次はそこを掘ってみる。