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深淵を科学する 第2回

前回のおさらい
前回は、AIと対話しながら株の売買ルールを作った。
市場全体を見て、有望な業種を選び、そこから買う銘柄を探す。最後に売るタイミングまで決める、という設計だった。
今回は、そのルールを実際の過去データで試した結果だ。
最初の結果は失敗だった
設計どおりにそのまま動かしてみた。
勝率41.9%。年率-3.0%。日経平均に対して-13.3ptの負け。
最初のアイデアは、そのままでは使えなかった。
ここから改善が始まる。
条件を少しずつ変えてみた
損切りや利益確定、保有日数などを何通りも試した。すると成績は大きく改善し、年率+10.0%まで伸びた。
さらに「最近上昇している銘柄だけを買う」という条件を加えると、年率+10.6%まで良くなった。
意外だったのは、その「最近」の期間だ。短いほど良いと思っていたが、20日でも90日でもなく、40日前後が一番成績が良かった。
思い込みが間違っていた
いろいろな買いシグナルも比べてみた。有名なRSIの反発。移動平均線への反発。高値更新。トレンドライン。
結果は予想外だった。RSI反発は、シグナル後の平均リターンが-0.46%とマイナス。移動平均線への反発も、単体では日経平均に対してマイナスの成績だった。この段階で一番良かったのは、高値更新を狙う方法(移動平均線への反発と組み合わせ)で、勝率51.7%、ペイオフレシオ1.49、日経平均への超過リターン+4.4pt。
「有名だから効く」とは限らないことが、ここで分かった。
良いと言われる条件も万能ではない
公開されている投資手法には「だましを減らす条件」がある。これも試した。
ところが逆効果だった。理由は簡単で、高値更新を狙う戦略に「高値から離れた銘柄だけ買う」という条件を足してしまったからだ。単独でも効果はほぼなく、4つの条件を全部重ねると、対象銘柄が97%減った上に、日経平均への超過リターンは-9.8pt、資産の目減り(最大ドローダウン)も28%まで悪化した。
それぞれは正しいルールでも、組み合わせると矛盾することがある。
売るタイミングも重要だった
保有期間も試した。ここでも面白い結果になった。
高値更新型は、保有18日で年率+14.7%だったのが、50日まで伸ばすと-1.7%まで悪化する。長く持つほど成績が落ちる。一方でゴールデンクロスは、保有18日で+11.0%だったのが、50日まで伸ばすと+8.4%、ペイオフレシオは1.47倍から2.04倍まで上がる。同じ「長く持つ」という変更が、手法によって正反対の結果になった。
評価の基準も変えた
最初は「勝率55%以上、かつ日経平均に対して+10pt以上」を目標にしていた。しかし、1,000通り以上の組み合わせを試しても、超過リターンは+4.4ptが最高で、勝率55%には一度も届かなかった。
そこで基準を見直した。勝率ではなく、利益と損失のバランス(ペイオフレシオ2.0倍以上)と、資産がどれくらい減るか(最大ドローダウン25%以内)を重視することにした。基準を数値で先に決めてから検証を続ける、という約束は変えていない。
すると、ゴールデンクロスを50日保有する方法(ペイオフレシオ2.04倍、最大ドローダウン10.9%)が、初めて合格ラインを超えた。高値更新型は、保有期間をどれだけ調整しても、ペイオフレシオが2.0倍を超えることはなかった(最高でも1.73倍)。
本当に使えるのか
最後に、調整には一切使っていない新しい1年分のデータで試した。
結果は悪くなかった。ゴールデンクロス(50日保有)のペイオフレシオは2.04倍から2.25倍に、最大ドローダウンは10.9%から8.8%に、どちらも調整時より改善していた。都合の良いところだけ数字が良くなったわけではない、という点は確認できた。
ただし、日経平均には勝てなかった。絶対リターンでは年率+31.4%と悪くない数字だったが、日経平均に対しては-27.7ptの負け。理由は単純で、この検証期間、日経平均そのものが年率+59.0%という、これまでとはかけ離れた伸びを見せていたからだ。
ロジックは壊れていない。しかし、市場全体が強すぎて勝負にならなかった。
今回分かったこと
一番大きかった収穫は、投資の定石を、そのまま組み合わせても強くなるとは限らない、ということだった。有名な手法でも、相性が悪ければ逆効果になる。
そしてAIは、大量の組み合わせを黙々と試すことで、こちらの思い込みを何度も崩してくれた。「たぶんこれが効くはず」という予想は、半分近く外れた。
次回
ゴールデンクロス戦略は、このまま実際の運用に近い形で試していく。
一方、高値更新型は、売り方(手仕舞いの条件)を見直せば、まだ伸びる余地がありそうだ。次回は、その改善に挑戦する。
中の人の一言
「AIを使った〇〇手法」みたいな話が、SNSには詐欺まがいのものも含めて溢れている。今回の一連の検証を見てもらえれば、そんなに簡単にできるわけねーだろ、というのが直感的に分かってもらえたと思う。
正直、無理に個別株をやらなくても、日本なら日経225インデックス、米国ならS&P500、世界ならオルカンを買っておけばいい、というのが界隈の常識になりつつある。それでもAIと一緒にそれに逆らってみるのは面白そうなので、しばらく続けてみようと思う。