朝、Xを開いたらトレンドにこう出ていました。
「メガソーラーパネルが日本の猛暑原因か」
太陽光発電所を持っている身としては、他人事じゃありません。しかも投稿には、パネルが真っ赤に燃え上がったサーモグラフィ画像。説得力ありそうに見えます。
Xで見かけた「メガソーラー×猛暑」のトレンド
で、思ったわけです。
これ、誰が言い出したんだろう?
黒幕がいるのか。それとも自然発生なのか。気になって、かなり本気で調べました。結論から言うと、
予想と違いました。
1. まず、科学の話から
意外なことに、元ネタは実在する論文です。
アリゾナ大学が2016年に発表した研究で、太陽光発電所の上空が、夜間に周りの荒野より
3〜4℃高い と観測されました。「太陽光ヒートアイランド(PVHI)」と名付けられています。
「ほら見ろ」と思うかもしれません。でも、条件を読むと話が変わります。
測ったのはアリゾナの砂漠 。日本の気候とは別物
発電所の真上 の話。どこまで広がるかは論文でも未解明
しかも2019年の追試では、夜間の温度差が出なかった
そして決定的なのがスケールです。日本のパネル総面積は国土の1%にも届きません。それで日本全体の気温を数℃動かすのは、物理的に無理があります。
気候変動が専門の江守正多・東大教授も、局所的な上昇はありえるが施設の近くに限られる、地球全体の温暖化とは別物だ、と明確に否定しています。
2. あの熱画像について
業界の人なら一瞬でわかるやつです。
サーモグラフィが映しているのは
表面温度 であって、
気温ではありません。
表面温度と気温はまったく別の物差し
真夏のアスファルトは60〜70℃になります。屋根も、砂浜も、車のボンネットも。パネルだけが特別に熱いわけじゃない。
しかもパネル表面は赤外線をよく反射するので、放射率や角度をきちんと設定しないと、測定値そのものが狂います。O&Mでサーモ点検をやったことがある人なら、身に染みてご存じかと。
つまりあの画像は、
「パネルが熱い」ことすら正確には示していません。
3. で、誰が広めてるの?
ここが本題です。結論を先に言います。
単一の黒幕は、見つかりませんでした。
発端は2025年7月
きっかけは去年の夏、帯広で「40℃」と報じられた日でした。「メガソーラーのせいでは」という投稿が1万2000回以上リポストされ、同種の主張は合計7000万回以上表示されています。
ちなみに気象庁の記録では、その日の帯広は39℃台。40℃には達していません。
拡散は「階層」でできている
調べていくと、きれいな4層構造が見えてきました。
拡散は「4つの階層」でできている
層
実体
①一次拡散
匿名の一般アカウント・まとめサイト。熱画像や「中国🇨🇳」絵文字付きの投稿
②インフルエンサー
フォロワーの多い発信者。「科学的に正しいかは知らないが」という前置きで、断定を避けつつ拡散
③言論・シンクタンク
保守系シンクタンク・言論団体。個々の投稿を「議論の余地がある論点」に格上げする役割
④政治
保守系政党・政策担当者。集票資源として機能し、規制・制度に反映
②の前置きが上手いんですよね。断定しないから責任を問われない。でも読者には「専門家も疑ってる」という印象だけが残る。
「工作」の証拠は出てこなかった
ここは正直に書きます。
アメリカでは、化石燃料業界がフロント団体を経由して反再エネ活動家に資金を出していた構造が、10年以上の調査で実証されています。 Energy and Policy Institute の報告書に、資金提供者の名前まで具体的に出ています。
じゃあ日本は? —
同じような資金の流れは、公開情報からは確認できませんでした。
「見つからなかった」であって「無い」の証明ではありません。でも、あると断言する材料も無い。
中国工作説は、動機が合わない
一番よく見る説ですが、これは論理が破綻しています。
中国はパネルの輸出国です。 日本の太陽光市場が縮めば、困るのは中国メーカーの方。「中国が日本の反メガソーラー世論を煽っている」は、動機として噛み合いません。
実際、対日影響工作を分析している専門家の報告をいくつも当たりましたが、
エネルギーや再エネが標的テーマとして名指しされた記述は見つかりませんでした。
因果が逆なんです。
日本国内の反中感情が、反メガソーラー言説を強めている。
4. じゃあ何が起きてるのか
黒幕はいない。でも自然発生とも言い切れない。
僕の理解はこうです。
利害の違う4つのプレイヤーが、たまたま同じ方向を向いた。
プレイヤー
動機
地域住民
実際に乱開発の被害を受けている
保守政党
コストゼロで動員できる争点
国内メーカー・政策当局
国産ペロブスカイトへの転換を正当化できる
Xのアカウント
インプレッション収益になる
誰も指示していません。それでも、全員が同じ方向に押している。
指令系統がなくても、これだけで十分に燃えます。
そして忘れてはいけないのが、1つ目です。
5. 一番大事な話:燃料は本物
反メガソーラー感情には、
正当な部分が確実にあります。
総務省が2024年に出した調査では、回答した861市町村のうち
約4割にあたる355市町村 で、泥水・土砂流出、雑草繁茂、騒音といったトラブルが発生していました。うち143市町村では未解決です。
釧路湿原では無許可開発で工事中止勧告が出ました。廃棄パネルは2030年代後半に年間最大50万トン規模になる見込みで、リサイクル施設の能力はまったく追いついていません。
この実害があるから、「猛暑の原因」みたいな荒唐無稽な話にも受け皿ができる。
だから「全部デマだ」と反論するのは、たぶん一番効かない戦い方です。認めるところを認めた上で、猛暑説だけを切り離す。それしかない。
6. 事業者としての現実的な話
最後に、同業の方向けに。
心配すべきは炎上そのものじゃありません。
制度はすでに動いています。
事業用太陽光(地上設置10kW以上)は、2027年度以降、FIT/FIPの新規認定対象外
ただし既に認定を受けた案件の買取は継続 します。遡って切られるわけではない
環境アセスの対象拡大、架台・基礎の安全規制強化、パネルのリサイクル義務化が順次来る
つまり、
世論そのものより「世論を根拠にした規制強化」がコストになる。
野立ての新規市場が事実上消えるので、既存の稼働案件の相対価値はむしろ上がる可能性があります。一方で、金融機関の融資姿勢、保険、地元合意、自治体との関係には逆風が効いてきます。
うちがやろうと思っているのは、こういうことです。
「うちは優良案件です」を、数字と写真で示せるようにしておく
所有発電所の認定年度と買取残存期間を棚卸しして、「新規認定廃止の影響を受けない」ことを説明できる資料にしておく
調整池、除草、土砂流出。総務省調査で問題視された3点について確認して、課題がありそうなら先回りで是正する
「うちは優良案件です」を、感情ではなく写真と数字で示せるようにしておく
デマと戦うより、
デマの燃料にならない発電所にする方が早い。
そう思っています。
付録:調査の詳細と一次情報リンク
科学(PVHI・熱画像)
実際の課題(反対論の「正当な部分」)
制度・政策
情報環境・言説の構造
調べたが「見つからなかった」もの
透明性のために、空振りだったところも書いておきます。
計算社会科学者(鳥海不二夫氏、笹原和俊氏ら)による、このメガソーラー言説に特化した伝播ネットワーク分析
日本国内の反再エネ言説に対する、化石燃料業界・電力業界からの資金提供を示す公開証拠
対日影響工作の分析における、エネルギー・再エネを標的テーマとして名指しした記述
クマ出没とメガソーラーの因果関係 を実証した査読研究
日本の気候条件下での、メガソーラー周辺気温を実測した査読研究
「見つからなかった」は「存在しない」の証明ではありません。検索の限界の可能性もあります。もし心当たりのある資料をご存じの方がいたら、ぜひ教えてください。